とにかくスーパーマーケットのことが知りたい。このところ母や友人とのやりとりで立て続けにそんな話があったので、今回は我が家の食糧庫のひとつであるトレーダージョーズというスーパーマーケットと、そのトレーダージョーズで最近話題になったミニトートバッグについてのエピソードを紹介したい。
1967年からアメリカで愛されつづけているスーパーマーケット
*トレーダージョーズ(通称トレジョ)は、全米に約570店舗を展開するカリフォルニア発の大手スーパーマーケットチェーン店だ。スーパーマーケットの名前は創業者のジョー•クーロン氏にちなんでつけられたらしい。アメリカに住むことが決まった際に、オランダで親しくしていたアメリカの友人家族やアメリカに留学していたことがある高校からの友人、ハワイが大好きな元職場の後輩など、人生で一度でもアメリカにふれたことがあるほぼ全ての知人友人から「アメリカに着いたら、とにかくトレジョへ行ってみて!」とアドバイスをもらった。そんなわけで私は、まだ自分がいる場所の右も左も分からぬうちから謎の強い使命感を持ってトレーダージョーズへ向かった。
*参照:Wikipedia
明るくて可愛い街のチアリーダー
ずいぶん陽気な店だな、というのが私のトレジョ(まだ略して言うのが恥ずかしい)への第一印象だった。店の入り口にカートと買い物かごがあるのは日本と似ているが、いわゆる日本のスーパーマーケットと違うのは、店内にあふれる可愛い雰囲気だ。スーパーマーケットの中にあるレジや棚、看板などはウッディーな素材で出来ていて全体的にほのぼのとしている。そこに「クルー」と呼ばれるアロハシャツを着たスタッフがたくさんいる。彼らが常連のお客さんと”Hi! How are you(やあ、調子はどう)?”と会話をしながらバナナやトマトを陳列している様子は、なんともアットホームだ。クルーはレジが混みだすと、レジの上のほうについている錆びた金色のベルをガランガランと手動で鳴らして、ほかのクルーたちにヘルプ要請をする。それぞれのレジには、この地域の中にある街の名前の札が立っていて、自分の街の名前を見つけた瞬間に「ここは私の店。」という近所のトレーダージョーズへの愛着と忠誠心のようなものが生まれる。私はカジュアルでフレンドリーな空間の中で「大丈夫だよ!今日も一緒に頑張ろうー!」と応援されている気持ちになり、また今はじめてお店に入ったはずなのに、まるで家に帰ってきたような居心地の良さを感じた。
陽気度120%ししとうお兄さん登場
野菜コーナーの前で仁王立ちしている私に、ピンク色のアロハシャツを着た男性クルーのひとりが「何か探してる?僕がお手伝いするよ!」と声をかけてくれた。私が日本食を作るのに紫蘇と大根を探していると伝えると、彼は、うーんどっちも無いなあと残念そうに首を振った。しかし次の瞬間、ものすごい速さで後ろのコーナーを確認しに行き、「シソはないけれどシシトウがあるよ!!」とまるで洞窟の奥で宝石でも見つけたかのように叫び、ししとうのパック(すごく大きい)を両手でかかげながら戻ってきた。私は、彼の笑顔と真っ白に光る歯があまりにまぶしかったのと、私たちの一連の流れを微笑ましそうに眺めている周囲のお客さんの視線が気になり、紫蘇とししとうは頭文字のShiこそ一緒だけれどもそれらはまったく違うものです、と言えずに迫力負けし、そのししとうを購入した。後日、私の夫も同じかたに笑顔でレジ袋を勧められて断れなかったということがあり、それ以来我が家で彼は「キラキラししとうお兄さん」と呼ばれている。お店がもともと明るい雰囲気なのに、それを上回る突き抜けたハイテンションで接客するトレーダージョーズ従業員により、トレーダージョーズはもはやスーパーマーケットではなくディズニーランドさながらの特別な場所になることを私はその時に知った。
8割を占めるプライベートブランド商品
近所のトレーダージョーズの売り場はそんなに広くない。限られたスペースに、野菜・くだもの•乳製品や冷蔵品・ハンドクリームなどの化粧品・シリアル・調味料・スナック・冷凍品などの各コーナーが所狭しと展開されている。おすすめ商品は手書き風(あるいは本当に手書き)の文字で紹介されていて、スーパーへ足を運ぶたびに内容が変わる。商品のほとんどを占めるのはTrader Joe’sと記載されたプライベートブランドのものだ。友人から聞いていた通り冷凍食品関係が強いようで売り場の3分の1ほどを占めている。店内の試食ブースでは常に新商品が紹介されていて、3〜4人の人々が楽しそうに会話しながら試食をしていた。いつの間にか自分もその集団に混ざってブルーベリー・ピーナッツバターなるものを食べていると、隣の女性が、トレーダージョーズはいつ来ても新しいものが必ずあるのよと力説してくれた。いつ来ても新しいってどういうことだろうかと、その背後にとてつもない商品開発力をうっすら感じながら、ポップで可愛いパッケージの新商品を手にとって私はレジへ向かった。一緒にいた娘は、レジでハイビスカス柄のうすい水色のTシャツに白いあごひげを生やしたカッコいいおじいちゃんクルーにステッカーをもらって喜んでいた。会員カードはないらしい。私たちの去り際、その白髭ダンディは「会員カードはないよ。シンプルにお買い物を楽しんで。良い1日を!」と言ってウィンクした。ひとすじのさわやかな風が流れた。はじめてのトレーダージョーズは充実の体験であった。
トレーダージョーズのミニトートに何が起きたのか
初回からすっかりトレーダージョーズに親近感を覚えた私は、今日で3度目のトレーダージョーズという日に、入り口の新商品コーナーに小ぶりなトートバッグが並んでいるのを見つけた。アメリカ好きの私の妹がエコバッグがほしいと言っていたことを思い出し、誕生日も近いしちょうどいいなと手に取ってみて、可愛かったので赤とネイビーの2色を購入して妹と母に送った。東京でエコバッグを受け取った妹からお礼とともに、このエコバッグが全米で人気のため品切中らしいというニュースが入ったのは2週間後のことだ。$2.99(約500円)のエコバッグが日本で5,000円で転売されているという。そういえば、私と同じタイミングでお店に入ってきたお客さんたちも次々にそのエコバッグを買い物かごに入れていて、その一角は途中からバーゲン会場のようになっていた。そして私が購入した翌日以降にエコバッグを見ることはなかったが、まさかそんな騒ぎになっているとは知らなかった。後日spotifyの広告に入ってきたトレーダージョーズのポッドキャストを聴いてみたところ、もともと人気があるキャンバストートを小さくしただけなのに瞬く間に売れてしまったことにトレーダージョーズ側も驚いているとのことだった。今年の8月末または9月に限定で追加生産があるそうなので、何か情報が入ったらこちらでもお知らせしたい。
爆発しつづけるアメリカのイノベーション魂
のんきに娘とトレーダージョーズのお気に入り商品ミニアイスクリームコーンを食べながら、いま私はこのブログを書いているのだが、あらためてトレーダージョーズすごいなと思いかえす。「ダメならはい次!ちょっとよくてもサヨナラ!同じものは次はないよ!!」と、自宅で商品を手に取るたびに私の心のトレーダージョー(創設者)がメガホンを持って主張してくる。アメリカという国は、大量の移民とともに、1776年の独立宣言以来このように新しいものを生み出すことを繰り返し行ってきたのだろう。トレーダージョーズの商品は、遊びをやめることを知らない子供が全力で繰り出すエネルギーのような、とてつもない破壊力を持っている。そのくせお店に行くと南国風のムードに満ち溢れていてなんだか歓迎されているような気になる。2020年以降は労組のことなどで問題もあるようだが、少なくとも私の近所のトレーダージョーズは今のところ平和ムードだ。この明るいイノベーティブマジックに、またかかりに行こう。
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