前回の記事ではアメリカでハロウィン(前編)ではハロウィンのひと月前〜直前までの準備やトランク・オア・トリートのことを書いた。

今回はハロウィン当日のレポートです。
いかなる場所でもコスチューム着用OKなハロウィン当日(昼の部)
ハロウィン前に発熱した娘の熱もなんとか下がり、いよいよ10月31日のハロウィン当日になった。その日は娘が通う小学校のクラス担任であるMr.Pから「ハロウィンパーティーへ保護者の皆さんをご招待!」というメールが来ていた。指定された11時半に学校へ行くと、30分ごとに各クラスの保護者が待機し順番にクラスに入れる仕組みになっているらしく、エントランスを入ってすぐの小さなホールで待つように言われた。保護者たちの半分以上は派手な仮装をしており、中には子どもたちより目立っている人たちもいる。私は、猫耳のカチューシャでも持ってくれば良かったかなと一瞬後悔したが、まあいいかと思いなおすことにした。余談だけれど、想定外のことが起きやすい外国生活において、そうしないと身が持たないということもあり、普段は何か起きたら自力で解決するのだという覚悟を持って行動するようにしているのだが、今回のように、準備をしたのに自分の常識と周囲の常識が相容れない事態が発生することがある。そんな時は、「まあいいか。」を発動させてバランスを取ることにしている。ちなみにアメリカの小学校のセキュリティは非常に厳しく、保護者であっても簡単には学校に入れないようになっている。玄関には屈強そうなガードマンが待機していて、必ずID(米国免許証、ソーシャルセキュリティナンバーが記載されたカード、パスポートなどの身分証)の提示を要求される。銃社会で子供たちを守るとはこういうことかと思う。
さて、指定された番号の教室に入ると先生と20人くらいの子どもたちの声でがやがやしていた。ピカチュウ、忍者、インサイド・ヘッドの怒り、カメやユニコーンなど思い思いの格好をしている。普通のTシャツを着ている子もいる。私は娘を見つけたので声をかけた。相変わらずぽつねんとしていたが別にさみしそうな様子ではなく、調子はどうかと聞いたらいい感じだと言っている。他にも一人でいる子が何人かいて、それぞれが特定の決まった子と話すというよりは個人個人で独立している印象を受けるクラスだった。私は、一人でいることを、孤立ではなく独立と思えることはいいなと思った。そのあとすぐにクラス内の生徒全員にカップケーキが配られ、担任のMr.Pによるハロウィンにまつわる本の読み聞かせとビンゴ大会が行われた。私は緊張しながらも満足げな娘の様子を見てほっとして学校を後にした。あとから聞いたら、娘が自分でデザインし私が縫ったおばけの衣装は大好評でたくさんの子が声をかけてくれたとのことだった。なんでもすぐ買えるアメリカ社会だけれど、実際に暮らしているとハンドメイドがクールだと言われることが多い気がする。
レッツスプーキー!大盛り上がりのハロウィンナイト(夜の部)
学校のハロウィンパーティーを終えたあと、娘はいつも通り16時前に帰宅した。前日の夜に友人ケイティとメッセージのやりとりをして、当日は16時半に彼女の家に集まってから家を回る約束をしていた。娘とふたりで定刻に家を訪ねると、彼女と彼女の3人の子どもたちと友人が、鬼滅の刃(アメリカではDemonSlayersと呼ばれていて今人気)やワンピースに登場するキャラクターコスチュームに身を包んでいた。私は、中国系スーパーのAマートで買っておいたポケモンカード入りチョコビスケットをJust for donation(差し入れだよー)と持参した。これはたいそう喜ばれた。そして集合したメンバーで1枚写真を撮ったのち、いよいよトリックオアトリーティングが始まった。
ハロウィンのトリック・オア・トリーティングとは、近所の家を訪問し「お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ。」というお決まりのセリフを言うとお菓子をもらえるというアレである。同じ地域で毎年ハロウィンをやっていると手慣れてくるらしく、(主にお菓子が豪華だったり面白かったりするという理由で)絶対に外せない家が3軒あると、ケイティは意気込んでいた。私は、なんとなく知っている人たちの家をまわるのかなとか思っていたら、まさかの3時間休みなしの全家ピンポン方式だった。私たちは、「ブロック」と呼ばれる半径1キロ圏内50軒ほどある家を一軒ずつ訪ねてベルを鳴らした。アメリカの子どもたちの体力はすさまじく、私の娘は慣れていないのと病み上がりなのとで、最後のほうは疲れてよろけながら集団に遅れをとっていた。そんな時は、さっとケイティが自分の子どもたちに、”Include 🌷(娘の名前)!”とか、”Don”t forget 🌷!”というふうに声をかけた。彼女の子どもたちは面倒がらずに走って戻ってきてくれて、娘の肩をガシッと組んで、また一緒にまわった。私たちはこの土地の新参者で外国人で期間限定滞在者なので、ふだん生活している中で、その土地に長く住んでいる人たちと接していて、彼ら彼女らと同等レベル以上で何かが出来ない時に、言葉悪く言うと、「この人たちは使えない。」と相手に判断されたが最後、今までニコニコしていた人たちからいきなり冷遇されてしまうということが、ままある。オランダとアメリカでそういう経験を多少なりともしてきたので、こんなふうにこころよく仲間に入れてくれて、いつも対等な友人として接する人たちに出会うと、私はありがたくて涙が出てしまう。
大人と子供がぜんぶで10人ほどのパーティで、みな今日の夕日はゴージャスだねと口にしながら家々を回り、いろいろなことを話した。ハロウィンは、昔はもっと遅い時間にまわっていたけれど、怖い事件が増えたことから17時前後にまわることが多いとか、大人は仮装はして良いけれどトリックオアトリーティングでお菓子をもらうのは子どもだけであるとか。しかしそうは言っても大人たちも自分のお気に入りキャンディーがあるらしく、たまに子どもからもらったり奪ったり(!)しながら、嬉しそうにつまみぐいをしていた。食べながら歩くのは行儀が悪いと言われて育った私は、途中まで自分がキャンディーをもらう行為は控えていた。でも一緒にまわっていた11才の女の子が、「あなたは何も食べてないでしょ?私のをシェアしてあげる。」と言って自分のロリポップを分けてくれたので、じんときて、みんなに混じってスイカ味のロリポップを舐めた。本当に大人たちそれぞれに小さい頃のハロウィンの思い出があり、お気に入りのキャンディー(アメリカでキャンディーという言葉には、飴だけではなくチョコレートやマシュマロなどその他の甘いものが含まれる)やコスチュームがあり、自分がハロウィンでまわった地域の原風景が残っているのがよく分かった。そんな話を聞くのはとても楽しいものだし、話してくれたことが嬉しかった。アメリカの人がこんなにもハロウィンが好きなわけが少し理解できたような気がする。

ちなみに私は今回幽霊の仮装をした。外国で仮装をするにあたり、どうしたらインターナショナルでお金をかけずにアイデンティティある仮装ができるか?を考えた結果の貞子というコンセプトだった。実は、2年前にもオランダで初めてこの仮装をした。その時は、ほとんどの保護者から白い目で見られ話しかけても目を合わせてもらえず、また日本人保護者の中では悪目立ちをしたらしく後から噂話だけ立つやら、全力の挑戦がただただ失敗した苦い記憶となっていた。でも今回は違った。2年前に感じた居心地の悪さや冷ややかな視線は一切なく、それどころか、一人の子など「あなたの着物コスチュームとっても素敵!」と私に言うためにわざわざ走り寄ってきてくれた。一緒に回ったケイティは、最後に、”Thank you for dressing up tonight!! You are amaging! (今夜のために素晴らしい仮装をありがとう!)”と言った。私たちは熱い抱擁を交わした。相手の体から気持ちが伝わってきた。オランダでのことは、もちろん単純に私がTPOを間違えた話とも言えるのだが、ハロウィンの日に、見慣れず奇妙な格好をしている私をすんなり受け入れてくれたアメリカ文化とアメリカの友人に心から感謝している。
ハロウィンで子供たちに人気だったお菓子TOP5
さて、ハロウィンが終わった後に近所の子供たちに聞いてみると、ハロウィンのトリックオアトリーティングで人気だったお菓子はこんな感じだった。
1位チートス
2位チップス
3位ポケモンカード
4位おもちゃ
5位キットカット
3位と4位はお菓子ではないのだけれど、たまに用意してくれているお家があると、子供たちがわあっと歓声をあげていた。

終わっても楽しいハロウィン
アメリカでハロウィンを経験してみて、ハロウィンの醍醐味とは当日なのだと思う。
ハロウィンは、子供たちの呼びかけに近所の大人たちが応えることが前提のイベントだ。それは、ふだん交流する機会のない人たちが一堂に介す貴重な機会ということでもある。我が家の近所では、おばあちゃんが本格的なウィッキッドの仮装をしてバルコニーに座りお菓子のかごを持って手を振ってくれたり、ミニーマウスの衣装を着た赤ちゃんとミッキーマウスの衣装を着たママがカラフルなキャンディーをかごにいっぱい盛って出迎えてくれたりした。トリックオアトリートと言われたらお菓子を渡すという型が決まっているので、自分から話しかけに行ったり会話をつなげる気遣いをする必要はなく、ユニークな人々を訪問者はとても褒めるので気軽に自分らしい表現にチャレンジできるのが良いところだと思う。やりたい人がやれば良いので強制される雰囲気がないところもグッドポイントだ。何より近所の人たち同士で交流が深まる。私は個人的に、ふだん顔を合わせて話すことはほとんどない人たちとたくさん交流できたことで、ハロウィン前は知らなかった隣人たちをハロウィン後はとても身近に感じるようになり、より安心して住めるようになった。
私はアメリカの、こういう、良いと思ったら他の人が怪訝な顔をしていても積極的に人を褒めるところや、オープンなカルチャーが好きだ。やりたいようにやれる自由の裏には、勝敗や差や自己責任という陰もまた存在するのだけれど、みんなと同じようにやることに窮屈さを感じたり、人と違うからだめと言われてうーんと思ったことがある人は、ボロ負けしたとしても、なんとなく楽に呼吸ができる場所であると思う。
トリックオアトリーティングが終わったあと、星が綺麗に見えていたので、裏庭で少しのあいだ眺めていた。すると隣に座っていた娘がこう言った。「ママ、ハロウィンでお化けになって友達と一緒にTRICK OR TREATINGしたいって言ったのを叶えてくれてありがとう。」こちらこそ、だ。
その夜は久しぶりに娘と一緒のベッドに入った。「ハロウィンって楽しいね。友達と時間を過ごせるし、何を着てもOKだし、ジョークがあるし、何しろたくさんのお菓子をもらえるんだから。みんなあかるいよ。お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ!」冷めない興奮と尽きないお喋りの楽しそうな声を耳に感じながら眠りについた。