Au Bon Viex Temps de décembre
近所に、古典的なフランス菓子をつくる、”Au Bon Viex Temps (オーボンヴュータン。直訳は「古きよき時代」)”という名のパティスリーがある。
しあわせの香り運ぶ店
オーボンヴュータンは、環八という大きな道路に面しているのだが、朝8時頃から、お店のまわりに、バターとカラメルが混ざったような、香ばしい匂いが立ちこめる。いい匂いは道路を越えて漂ってきて、ふと環八中がお菓子屋になったように錯覚してしまうほどだ。毎朝、道路の向かいからこの香りが漂ってくると、その場に居合わせた信号待ちの人びとの顔がほころぶのが分かる。
お茶の時間を楽しむ人たち
東急大井町線の尾山台駅周辺には、おいしいパティスリーがいくつかある。各駅停車の2駅先には、パンとケーキの聖地・自由が丘があり、おいしいスイーツに事欠かない。また、丸山珈琲をはじめとするコーヒー専門店が、tea 文化繁栄の傍を固めている。
過去と現在をつなぐ不思議な空間
以前、ある晴れた日のお昼ころに、腰に手を当てて、お店に正面から対峙する河田勝彦シェフをお見かけしたことがある。スイーツ界で知らない者はいないといわれるほどの人が、真剣に、これでいいのか?と問うていて、職人の姿勢に惚れ惚れした。入ったことがある人ならわかると思うが、オーボンヴュータンには、時を越えた、不思議な空気が流れている。古いレシピを再現しているというのもあるだろうけれど、河田シェフの、並々ならぬ情熱の賜物に違いない。
新しいパティスリーが次々とできて、オーボンヴュータンにも一時、翳りが見えたかと思われる時期があったように思う。けれども毎年12月に、お店の前に人々が列をつくっているのを見ると、実力は健在と嬉しくなる。
私は、オーボンヴュータンが好きだ。