雪が少し残る二月の週末、ニューヨークのマンハッタンにあるレストランSarabeth’s(サラベス)へ行った。そこで食べた朝食が美味しかったので紹介したい。
Sarabeth’s(サラベス)とは
「ニューヨークの朝食の女王」と呼ばれるサラベスの名前だけは聞いたことがあるという人がいるかもしれない。もともとは、家族秘伝のレシピで作るフルーツスプレッドが美味しいと評判だったサラベス・レヴィーンさんが、1981年に朝食を提供するレストランを開いたことがお店の始まりだ。当時のニューヨークには朝食を食べるためのレストランがなく、味の素晴らしさとともにブランチという新しい文化がグルメなニューヨーカーたちを虜にしたという。現在はアメリカ国内の5店舗(うち4店舗がニューヨーク州内)ほか、日本を含むアジアや中東など世界中へ店舗展開しており、人気は継続中だ。
ゆっくり始めたい朝に アッパーウエストサイド店
今回訪れたのはサラベスの最も古い1号店、クラシカルな雰囲気が漂うアッパーウエストサイド店だ。映画「ナイトミュージアム」の舞台にもなった自然史博物館までは、徒歩5分という便利な場所にある。前日にGoogle Mapから事前予約をし、当日は朝の8時半過ぎにお店に着いた。開店してまだ30分だというのに、レストランの入り口付近は、すでに人で賑わっている。
レストランの店内へ入ると、活気ある給仕たちがグッモーニンと出迎えてくれる。そのうちの一人が奥のテーブルへ案内してくれて、彼はメニューを渡すのと同時に私たちに飲み物の希望を聞いた。私が真剣に悩みたいので少し考えますと言うと、もちろんですごゆっくり！とにっこり笑って私たちの席を離れた。
大いに悩んだ結果、家族３名でポップオーバーとフレンチトーストにオレンジジュース、それにアメリカン２つをオーダーした。
フレンチトーストとパンケーキのどちらを注文しようか
ブランチが美味しいお店へ行くと、フレンチトーストとパンケーキのどちらを選べばいいのかいつも悩みがちなのは私だけだろうか。もしサラベスで同じような状況になっている人がいるのなら伝えたい。「どちらも正解。(なぜなら、どちらを選んでも素晴らしいから！)」と。
その理由はメープルシロップにある。たぶん。
フレンチトーストの横に添えられたメープルシロップは、春の小川のせせらぎのようにさらさらしている。この爽やかなメープルシロップをナイフで少しずつかけながらいただくフレンチトーストは、一口ごとにバターのコクとトーストの香りが口の中いっぱいに広がり、濃厚なのに全然しつこくない。フレンチトーストとパンケーキのどちらを頼んだとしても、このメープルシロップが付いてくることによって、はじめからおわりまで何度も天上の気分を味わうことになる。レストランに入ったら肩の力を抜いて、その時の気分でオーダーしたい。
卵料理好きにはたまらないポップオーバー×スクランブルエッグ
実は、サラベスはエッグベネディクトの有名店でもある。ゆえに、卵料理が好きな人はエッグベネディクトを注文しがちだ。しかし、あなたがもしも卵料理が好きで、さらに冒険心をお持ちなら、ぜひとも「ポップオーバー」を試してみてほしい。
とろとろのスクランブルエッグにBoursin(ブルサン)チーズとネギ、それにワイルドマッシュルームが入っていて、仕上げにトリュフオイルがかかっている。ポップオーバーの横には自家製フルーツスプレッド(ジャム)とバターが付いている。ポップオーバーを割って自分の好みにいろいろ乗せて食べるのはとても楽しい。フレンチトーストと同様に、見た目のボリュームから想像するよりも強すぎず、飽きのこないひと皿だ。
アメリカンブレックファストをとびきり洗練されたスタイルで
サラベスの得意料理は、エッグベネディクトやパンケーキといった昔ながらのアメリカらしいメニューだ。一見するとアメリカならどこにでもありそうな見慣れたラインナップだと感じるかもしれない。でも実際に食べてみると、ほかの店の同じメニューと何段階か違う次元のものを自分が体験していることに気がつき始め、食事を終える頃には、メインの料理はもちろんつけ合わせのサラダに至るまで、すべてのナイフとフォークの流れを考えて料理が作られていることに感動する。コーヒーも風味豊かで、すっかり魅せられてしまった。たまに映画や音楽など批評の世界で見かける「分かる人に分かる」フレーズ。サラベスのお料理、特にフレンチトーストは、このジャンルの住人なのかもと思う。高級ブランチ店なのでなかなか頻繁には来られないけれど、謎が残る美味しさの秘密を解明すべく、もしも機会があったら今後また訪れたい。
