国王の日 2022 

CULTURE

Koningsdag 2022

King’s day/Koningsdag(右のオランダ語はコーニングスダッハ、と読む)は、オランダ国王の誕生を祝う祭日だ。この日は、オランダ全土がオレンジ色(王家の色)に染まる。そして、パレードや音楽祭が催されるほか、vrijmarkt(フリーマーケット)が開かれ、誰でも自由に物を売買することができる。

アムステルダムや周辺の街でも、4月26日(火)の夜から 4月27日(水)終日まで、王の日が盛大に祝われた。

国中へコロナ禍の終焉を告げる 祝祭
今年は、2年間にわたる規制の後のお祝いとあって、1週間前頃からお店や人々がそわそわと湧き立っているのが、来蘭して1ヶ月の外国人である我々にも分かった。オランダの各メディアは、王の日について、鉄道、イベント主催者、カフェやバーなどの飲食店、フリーマーケットを楽しみにしている一般市民など、すべての人たちが素晴らしい王の日を過ごせるように準備を整えて、「正常に戻る」ことが約束される日になるだろうと(いうようなことを)伝えていた。日本では今したいことアンケートの1位は、このところずっと「旅行」だというし、人々が再び楽しみたいと思っている現象は世界共通なのだろう。

注目される ダッチロイヤルファミリー
王の日なので、国王が登場する。オランダ王室の主要メンバーである、ウィレム=アレクサンダー現国王とマキシマ王妃、トリプルAの愛称で親しまれる、アマーリア王女、アレクシア王女、アリアーネ王女の5人を含む、オランダ王室メンバーは、この日をマーストリヒトで過ごした。国王がグータッチをしたり、王妃がハグやプレゼントの受け取りをする様子が見られるなど、王室は案外カジュアルな存在だ。日本で、天皇皇后両陛下が4つ打ちのビートに合わせてジャンプしながら踊っていることはなかなか想像し難いし、ミスタードーナッツの店先に、天皇陛下誕生記念ポンデリングが並ぶことは、まず無いだろう。国王に直接意見や質問をする方がいたりと、オランダの人々は王室をより身近に感じているように見える。ただ、良いことばかりではなく、距離が近いことやヨーロッパ1の予算を受け取っているなどいくつかの理由により、現オランダ王室は批判も受けやすいようだ。(現在、王室支持率は47%。昨年は57%だった。)

Dunkin’ doughnutの 王の日限定商品 Koningsvlag(王様の旗)ドーナツ

“一杯だけ”ルール
強力な経済政策に定評のあるオランダ王国だが、コロナが完全に収束していない事実を踏まえ、アムステルダム市議会のホームページには、人々が飲み過ぎないように「市街地にいる人は、1杯以上のアルコール飲料を持って(飲んで)はいけない。」という”一杯だけ”ルールが発表された。また、飲酒した船長に最高1,000ユーロの罰金が科されるなど、賑わいが予想されるアムステルダム中心部運河沿いの混乱を避けるための、厳しい罰則も設定された。

当日の過ごし方
王の日の過ごし方は、人によって違う。音楽祭や野外フェスに参加、いつもの行きつけのお店で王の日限定メニューをいただく、王室の追っかけ、家族とお店を出す、いつも通りの休日を過ごすなど、自由だ。我が家は、本帰国を控えた友人家族が、自宅近くのスタツハルトというショッピングモール内に出店するとのことだったので、午前中はそのお店に顔を出させてもらった。前日の新聞に、いくつかの公園で子どもたちのためのフリーマーケットが開催されるとあったので、午後は、その中のひとつの大きな公園フォンデルパークへ行くことにした。

王の日のトラムは止まりがち
自宅の最寄駅からアムステルダム中心部にあるフォンデルパークへは、トラム(路面電車)に乗っていく。普段のトラムは、人と人が密着することはあまりない混雑具合だが、この日は違い、オレンジ色の服で「正装」した人々で車内は満員だった。オランダ鉄道(NS)は、王の日のために数百人の増員をしていたようだが、当日は満員のトラムが次の駅へ行く途中で止まり、なかなか動かずダイヤが乱れ、乗れない人が続出していた。王の日に公共の交通機関を使いたいなら、時間に余裕を持った方が良いことがよく分かった。

オランダのマスク事情
そっちはマスクをしているの?と、日本の友人たちによく聞かれる。結論から言うと、外出している人々は、ほとんどマスクをしていない。マスクをしている1割くらいの人たちのマスクは、医療用で立体のしっかりしたタイプであることが多い。ここからは私の主観になってしまうけれど、つけますよね?とか、外しますよね?みたいな暗黙の空気は全く感じず、個人がそれぞれの判断で、自分の振る舞いを決めている。そこに対して論議は起こらない。我が家は、人混みに行く時はマスクをし、普段ははずすなどTPOでつけ分けている。

子どものためのフリーマーケット
フォンデルパークへ

のんびり運行のトラムに30分ほど乗り、 Van Baerlestraat駅で降りて10分歩くと、フォンデルパークに着いた。入り口で、全身オレンジの男性がフレッシュオレンジのサングリアを売っていた。1杯くださいと言いたい気持ちを堪えて、娘と公園の中へ入った。着いたのは14時過ぎだったが、まだマーケットは賑わっていた。12〜3才くらいの子どもたちが、ゲームやおやつなどのお店を子どもたちだけで考えて出していることが多く、装飾や仕組み作りなど、オリジナルのアイディアがいっぱいで見ていると面白い。

王の日当日の vondelpark(フォンデル公園)の様子

5ユーロの価値は プライスレス
我が娘は、日本からオランダへ来る際に、お小遣いを貯めた日本円をすべて両替した全財産5ユーロ(700円程度)を持参して、マーケットに参加していた。
彼女の目当てはキックボードで、それ以外のものは目に入らず、1時間歩き続けても行き尽くせない広い公園を、最後はほとんど小走りで回った。本人の身長に見合った品物は全部で3つ見つかり、その中で1番状態が良さそうなものを試乗させてもらった。これにすると決めたあと、値段を聞いたら10ユーロと言われ、ショックを隠せず泣きそうになっていた。ポシェットから財布を出して、なけなしの5ユーロを見せると、出店者が良い方で半額で売ってくれた。フリーマーケットの厳しさと楽しさを噛み締めながら、娘のはじめての王の日が終了した。財布は空っぽになったけれど、誇らしげな娘の表情を見て、私は来てよかったと思った。

おわりに
一般市民にとって、王の日のメインイベントは、やはりフリーマーケットではないかと思う。我が家は子ども向けのマーケットへ行ったけれど、例えば、洗練された品物を探したい人はベートーヴェン通りなど、好みに合わせて行く場所を考えるのは楽しい作業だ。また、一般の人が突然お店を出して自宅にあったものや使っていたものを並べているので、売る方に少し不器用な感じがあって、買う方も気恥ずかしさがあったりで、でも最後はお互いに、バトンを渡した引き継いだ!という意識が宿って、人のぬくもりを感じられるのがとてもいい。必ず予期せぬ出会いが待っているであろう王の日、来年は何をしているだろうか。

参考サイト:dutchnews.nl, theguardian.com, amsterdam.nl