Little Chef
5月の終わりに、”マイ包丁”を買ってもらったことで、娘が、以前よりも、台所に立つようになった。
金曜日のマルクト(市場)では、新鮮な魚介が手に入るので、たいてい、鮭、鯖、鰻、はまちやまぐろの刺身、あさりやマテなど貝類を購入する。金曜日から週末にかけて、食材を調理するのは主に夫の担当だ。最近そこに、何か手伝うことはないかと娘が加わるようになり、我が家で「ちびシェフ」と呼ばれている。
「オランダのお刺身は、薄く切った方がおいしいからね。」
「ソーセージは輪切りにしたほうが食べやすいよ。」
包丁を購入してひと月経ち、食材の切り方に 、こだわりが出てきた。
「ママ、昨日のあさりはどうやってお料理した?砂が残ってる気がするよ。塩水に浸けて砂を吐かせないと、じゃりじゃりするからね。」
ふた月めには、私の料理の下処理の甘さに口を出すようになった。嬉々として、はまちの骨を抜いている娘の姿に、うっすらと頼もしさを感じる。
日本が誇る合羽橋の名店 釜浅商店
包丁は、パリの釜浅商店を訪ねた際に、子ども用のものがありますよと紹介していただいた。お店で説明を受け、良さそうな品だったことと、その場で本人が真剣にほしいと言ったので購入することにした。使っていくうちに刃が削れて、大人になったらペティナイフとして長く使えるというのもいい。この子ども用包丁には名入れサービスがあって、ギフトとしても人気なのだとか。パリ店は、まだ準備中だそうだが、フランスで購入した品でも、日本の合羽橋にある、釜浅商店で対応していただけるとのことなので、帰国の際などに利用したいと考えている。
本物の道具は使いたくなる
子ども用の包丁といっても、切れ味は抜群で、素晴らしい道具だ。これが本物だという感覚は、子どもでも(ひょっとしたら子どものほうが)あるようだ。私か夫が台所に立っていると、いそいそと自分の包丁を持ってくるようになった。そして使い終わると、大事そうにしまっている。本物の道具は、人のモチベーションを深いところから引き出してくれるようで驚いている。
料理をすることで 自らを生きる
人は、カロリーを摂らないと生きていけないから、人生の多くの時間を食事に費やす。自分が好きな料理を自分で作れると、少なくとも食ことに調理においては、他者を頼らなくても、期待と満足を得やすい。また、その満足の積み重ねがおそらく、自分で選び生きている、という自信につながる。自炊は、自分で栄養のバランスをコントロールできてヘルシーな上に、お財布にも優しい。今後ますます変化の激しいことが予想される時代に、料理ができると生きていきやすいと思うのだ。
以前、私が高校生の時、一緒に寮で生活していた友人の家に、久しぶりに遊びに行ったら、その友人のお母さんがこう言った。「生きてて何が嬉しいって、こうして娘が台所に立ってるのを見られることよ。」その時、私の友人と友人のお姉さんは、ふたりで食事の支度をしていた。週末に、娘から、「ママー!ごはんできたよー!」と声がかかると、その友人のお母さんの気持ちに、ほんの少しだけ、近づけたかもしれないと思う。
今後のちびシェフに、期待したい。