オランダに住むための覚悟

LIFE LANDSCAPE

Prepared to live in the Netherlands

10月末にサマータイムが終わり、日本との時差は8時間になった。今年のヨーロッパは例年より早く冬入りしたそうだ。元々オランダは冬が長い国といわれているが、9月を過ぎたあたりから、秋を飛ばしてほぼ冬の気候だ。先月からずっと、冬物のいちばんあたたかいコートを着ている。急な寒暖差のために、体調を崩す人が増えている。先月は、娘の学校のクラスメイトや近所に住む数少ない友人たちから、次々に体調不良の報せが入った。

恐らく寒さと強い乾燥が原因で、先日、私の娘はウィルス性と思われる胃腸炎にかかった。日本では、おなかが痛くなることなど殆ど無かった彼女は、数日間学校を休んだ。そして回復した頃、「ママ、オランダに住むには、いろいろと覚悟が必要だね。」と言った。聞いてみるとそれは、「寒くなってもいい覚悟・風邪をひいてもいい覚悟・おなかが痛くなってもいい覚悟。」だという。

娘の発言は、日本からオランダに引っ越した場合に、気候の違いが小学生低学年の子どもの身体に、どんな影響を与えたのかを物語っている。我が家が直面しているオランダでの気候環境変化と、プラスに転じる為にとった対策を書き留めておく。

寒さに強いオランダ人
オランダは、寒い。その年々で違いはあるが、日本でいう真冬の感じが、10月から4月の初め頃まで続く。それでもオランダ人は、比較的薄着だ。気温が10℃以下でも、半そでのTシャツで余裕そうにしている。街を歩けば元気なオランダ人と、寒がっている外国からの移民や一時滞在中と思われる厚着の人々のコントラストに気がつく。

インフレの影響
オランダに住む前に私は、「セントラルヒーティングが普及しているオランダだから、自宅は1年中あたたかいはず。だから冬が来ても、家の中で過ごせば安心。」こう考えていた。しかし待っていたのは、止まらないインフレの影響で値上がり続ける光熱費が家計をとてつもなく圧迫してくる現実だった。DutchNews.nlによると、来年のオランダの平均的な光熱費支払額※1は、ひと月あたり290ユーロ(約42,050円)になるという。北欧に住む義兄の友人は、今のヨーロッパで暮らすと、光熱費だけで10万円以上かかると言っていたそうだ。これは大げさな話ではなく、もちろんオランダも例外ではない。我が家が契約している、ガス・電気会社の大手Vattenfall(ヴァテンフォール)のホームページには、どうしたらエネルギーの使用(および光熱費)を抑えられるのかについて、アドバイスやモデル動画がいくつも紹介されている。たとえば、家族全員シャワーの時間を短くするetc…。バスタブに湯を貯めるなど言語道断、どこかの貴族か王族にしか許されない行為だ。ご近所の日本おかみさん連盟(仮称)によると、日系企業の中には物価の上昇に合わせて給料が上がるという会社がそこそこあるらしい。しかし残念ながら、我が夫の会社にはそのような柔軟なシステムは無かった。そこで我が家は、冬は家で過ごすという発想を改める。今年は暖房をなるべく使わず、機能性の高い衣服で防寒して、冬でも内に籠もらず外に出て元気に活動することに決めた。

オランダでの寒さ対策はベースレイヤーが鍵
オランダ人を含む西洋人と、私のような東洋人では、快適だと感じる温度が違うという研究結果※1がある。これは皮膚構造が違うためだと考えられているらしい。では、主に西洋人が住む土地であるオランダで衣服による防寒対策をするとき、どのような方法が良いのか。アウターよりも、皮膚により近いベースレイヤー(下着など皮膚に直接触れるインナー)を強化することが、快適温度を保てる効果が高いように思えた。自分の皮膚を厚くして、西洋人の体感に近づけるイメージだ。

冷えないメリノウール
ベースレイヤーに力を入れるというコンセプトが決まったら、次は何を着るかだ。防寒アイテムでインナーというと、日本ではヒートテックを思い浮かべる人が多いと思う。アムステルダムにはUNIQLOがあり、我が家も大変お世話になっている。しかし実は、ヒートテックには汗をかいたら冷えるという弱点がある。今回は、熟慮の末に、メリノウールという結論に行き着いた。

実際に購入したメリノウールのベースレイヤー

機能性ウェア探しはビーバーで
1日に雨が何度も降ったり止んだりするオランダでは、すぐ乾くとか、防水であるとか、機能性の高い服が必須だ。そういった洋服は、アウトドア用品のセレクトショップのビーバーへ探しに行くことが多い。中でも南アムステルダムの、ヘルダーランドプレインというショッピングモールの中にあるビーバーは、広い店内と豊富な品揃え、親切な店員さんがいて子どもが遊べるスペースがあり、自然と足が向く。今回はそこで、メリノウールの老舗であるアイスブレイカーの商品を見つけて、夫と私のトップスを購入した。着用し始めて2週間、非常に暖かくて快適だ。良かったので、もう1枚ずつ購入しようとしたところ、完売していてお店の方に再入荷待ちと言われた。この季節の売れ筋なのだそうだ。

ヘルダーランドプレインのビーバー店内 天井が高くて開放感がある

最大限にあたたかくすること
寒いと、体が冷えて風邪をひくし、おなかも痛くなる。実は、私自身、前回オランダで暮らしていた頃は、夏以外の季節は毎日おなかを壊していた。日本に帰国して、これは冷えが原因だと分かった。それくらい、日本とオランダでは寒さの質が異なる。おしゃれさんは薄着、ガマンなど諸説あるが、人間は、寒すぎたり暑すぎたりすると気分が落ち込み、ストレスが溜まる生き物らしい※2。何よりも、自分や家族が、それぞれのベストコンディションで毎日を過ごせる可能性を高めることが重要だ。秋冬に天気の悪いことが多いオランダには、”Er is geen slecht weer, alleen slechte kleren.(英訳:There is no bad weather, only bad clothes.)”という言葉がある。天候が悪いのはもう分かっているのだから、服装で対策するのが常識という意味だ。覚悟というよりも、準備が必要なのは確かなようだ。娘は寒くなってもいい覚悟とやらを鍛えるつもりらしいが、それでは心許ない。こっそり彼女のワードローブに毛糸のパンツをしのばせておこうと思っている。

参考:
※1オランダの光熱費は年額制で分割払い。その年の使用状況が翌年の支払額を決める。
※2 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0360132320305369 Higher comfort temperature preferences for anthropometrically matched Chinese and Japanese versus white-western-middle-European individuals using a personal comfort / cooling system
※3The guardian: Hateful tweets multiply in extreme temperatures, US analysis finds